こんにちは。南部に来てからの負傷回数がそろそろ三桁になりそうなハボック君です。
今朝は手の上にコーヒーを零されて火傷をしました。
これでとうとう96回目。ブラックウィドウがカウントしていたそうです。
そんなデータいらねえから仕事しろよお前。
しかし改めて聞くと凄い数字だ。すぐに治せるっていったって、これはちょっと怪我が多すぎる。
そのうえ加害者は敵じゃなくて主に部下なんだぜ。誰かは言わずとも察しはつくだろう。
素直な性格と適応性の高さが仇となり、戦場での周囲の振る舞いに影響を受けて行動が異様に雑になった、とある部下。
本人も気をつけてはいるのだろうが元々迂闊なだけに改善も難しく、悪気がない分性質が悪い。
教育しなおそうにも前線ではそんな暇も余裕もないし、矯正したってどうせこの環境ではすぐに元に戻る。
今はまだヒール1、2回分の怪我で済んでいるが、いつか奴のちょっとしたうっかりで命を落とすんじゃなかろうか。
そんな危機感を募らせていた俺に、ある日救いの手が差し伸べられた。
兵員交代だ。
勤務上のシフト交代とかじゃなくて、旅団全体での兵員交代。
嘘じゃないぞ。またいつものガセネタかと思って聞き流してたら昨日ちゃんとした公文書が来た。
これならアイツがちょっとばかし注意深く生活してくれさえすれば、被害を二桁で抑えられるかもしれない。
後方に戻ったらセントリーを巻き込んで教育ママのごとく躾けてくれよう。俺の身の安全のために。
……嘘じゃないよな?
これで「やっぱり交代中止」ってことになったら俺はマジで泣くぞ。
ちなみに中隊の反応はといえば、第一線の戦闘区域を第八旅団が受け継ぐ旨の文書が送られてきた時点で、なんというか、祭になった。
さすがに戦場だということで自重したのか騒ぎはしないが、流れる空気が完全に浮ついている。いい年した大人が夏休み前の子どものようだ。
シャワー浴びたいとか美味い飯食いたいとかいう即物的なものから白い犬を飼うんだとか窓辺にはお花を飾ろうとかいうわけのわからんものまで、寄ると触ると夢のような未来について話し合い、またその無駄な情報をブラックウィドウが集めきては俺にぶちまけていく。
中には故郷に戻って結婚すると言っていた奴もいたそうなので、それは死亡フラグという危険な発言だから殴ってでも止めるようにと伝えておいた。別に嫉妬ではない。
さて。
そんな楽しげな周囲をよそに、俺はといえば一緒に盛り上がることもなく淡々と仕事をこなしている。
もちろん俺だって戦場を去ることができるのは本当に嬉しい。
最初に聞いたときには思わず叫んでしまうくらい喜んだ。
東部のあの店であれを食いたいとかハボママの作ったポタージュ食いたいとか色々と楽しく語り合ったりもした。
にもかかわらずなんで現在こんなにローテンションなのかというと、ただ単に忙しすぎてそれどころじゃないからだ。
十日ばかり前の戦闘で、大隊長をはじめ大隊本部に詰めていた兵士の半分近くが戦死し、後釜にうちの中隊長が収まった。
それ自体はイシュバールの時にも似たようなケースがあったし戦場では珍しくもない話なんだが、そのまま兵員交代の流れになってしまったせいで補充がない。
人手不足は慢性的なものだとはいえ、残りの人員だけではさすがに手が足りず俺がひっぱられてきたわけだけど……気がつけば大隊本部の事務処理を一手に引き受けているこの状況はどうかと思う。
交代に際しての情報が満載された大量の文書を読んで中隊長、もとい、大隊長と相談のうえ関係各所に連絡したり、それに伴う諸問題を大隊長に報告して手配したり。
行軍の経路に隊形、補給や傷病兵の輸送。
細かすぎていらいらするようなことから大雑把過ぎて判断に困ることまで、やらなきゃならないことが多すぎる。
上が決めてくれたんだからそのとおりに進めればいいだけじゃんと思う奴は甘い。
決められたことに沿って行動するにも準備や事務処理は必要です。偉い人にはそれがわからんのです。
つーかさ、俺がやる必要ってないよね。
なんかうちだけじゃなくて他所の隊の奴らまで、とりあえず困ったことがあったら俺に言やあいいと思ってやがるみたいなんですけど、そこんとこどうなんですか。
「あ、ハボック少尉!すいませんが軍医殿が少尉を呼んで来いと――」
……二日後には出発なんだぜ。ほんと、勘弁してくんねーかな。
◇◇◇
前線を離れ部隊集結地へと向かう行軍の列は、俺が予想していたよりもずっと静かだった。
いつもの移動と比べればややざわついてはいるが、昨日までの浮かれた空気が嘘のように大人しい。
騒いでる時に敵と遭遇したらどうしようという俺の心配は杞憂だったようだ。
「まあ一応皆歴戦の兵士だし……それだけってわけでもなさそうだけど」
途中で合流した第四大隊の憔悴っぷりも、うちの連中がお口にチャックをした理由の一つだろう。
疲労困憊、まるで幽鬼の群。
血と泥で汚れた顔には暗い影が刻み込まれている。
喜んで快哉を叫ぶよりも安堵と虚脱で呆然、って感じだ。
俺よりも若いだろう兵士がまるで老人みたいに疲れた目でとぼとぼ歩いてたら、いくら空気の読めない奴らでも口数くらい減るさ。
「比較してみると第二中隊の異様さが際立つな」
最初のころはともかくここ数ヶ月は乞われるがまま無造作にヒールかけてたから、疲労度にはかなり差が出ているはずだ。
長らく前線に留まっていたせいで第一中隊や第三中隊にも俺の隠し芸を知っている奴は結構いて、そいつらも折に触れて回復はしてたが、やはり第二中隊の無駄な元気にはかなわない。
「隊長のおかげですね」
ぽつりと呟いた俺の言葉を聴いていたのだろう。
すぐ後ろを歩いていたはずのセントリーが、するりと横に並んで低い声で言った。
「しかし、これから先は気をつけてください。戦場と同じ調子でいると望ましくない事態になりますよ」
望ましくない事態ね。
そいつはちょっと勘弁してもらいたいな。
「せいぜい用心するさ」
平和ボケならぬ戦争ボケか。色々と思い当たることがあるから否定できん。
わざわざ分かりやすく釘を刺してくれたことだし、当分の間魔法は封印しておいたほうが賢明か。
休憩に入ったら回復しようと思ってたんだけどそれも我慢だな。やれやれ面倒くさい。
「くれぐれもご注意を。では、私はブラックウィドウと話したいことがありますので」
言うだけ言って、列の後ろの方へ移動するセントリーを横目で見送り、黙って歩く。
行軍の直前にこっそりヒールで全快してきたおかげでさほど疲れてはいないが、体力はできるかぎり温存しておきたい。
仮にも士官が途中でへばったりしたら格好悪すぎる。 部隊集結地までなんとか持たせなくては。
「――ったら兵隊やめてパン屋になろうかな」
うつむいてひたすら足を動かしていると、ふとそんな言葉が耳に飛び込んできた。
肩越しに後ろへと視線を送るも一体誰の発言かは分からず、ただ数人ばかり後ろの方から声だけが風に乗って届いてくる。
「実家は兄貴が継いだとか言ってなかったか」
「弟子入りして一人前になったら別に店を出すんだよ」
ああ、パン屋の倅か。そういえば第二小隊にいたな。
一昨日だったか、腹の辺りに迫撃砲の破片が食い込んでえらいことになってたっけ。
救急隊が来る前に一応治しはしたけど、あの後もちゃんと生き延びていたようでなによりだ。
「嫁さんと?」
「そうそう。結婚してもう2年になるのに、一緒に暮らしたのは1ヶ月足らずだぜ。早く帰りたいよ」
「帰ったらまずは彼女を抱きしめるわけか。お前ちょっと殴らせろ」
「どうせ彼女に殴られるさ。さすがに待たせすぎた」
聞くともなしに聞こえてくる会話に、小さな笑い声。
そのうち二人の話題は両親への手紙の話へと移り、俺は歩きながらぼんやりと最初に聞いた言葉を反芻した。
帰ったら、か。
そういや中た……大隊長って帰ったら正式に昇進するんだろうか。
俺はこないだ少尉になったばっかりだから現状維持としても、大隊長は今の状況と実績からしたら階級が上がってしかるべきだと思うんだが。
個人的には旧ハボック分隊メンバーの面倒を見てくれるなら階級はどうだっていいんだが、信頼する上司が評価されるのはなんとなく嬉しい。
マスタング大佐やヒューズ中佐のせいで価値観が狂いがちだけど、あの若さで少佐ってのは相当出世は早いほうだよな。
大佐の階級はある意味チートだしさ。
「でも若いうちに高い地位につくと風当たり強そう」
マスタング大佐はそれで大変だって話だ。
本人の性格が余計な敵を作ってる気もするが、足を引っ張ろうとする有象無象をいなすのはさぞ面度臭かろう。
その点ヒューズ中佐は凄い。
錬金術師でもなんでもないのに二十代にして中佐。しかもどう立ち回ったんだか知らないが、嫉妬ややっかみの声もほとんどないそうな。
仕事は順風満帆で人間関係も良好、家に帰りゃ美人の嫁さんとかわいい娘が待っている、と。
軍人でも幸せな生活は送れるという素晴らしい例だな。
殺されるけど。
……前線にいる間は忙しさを言い訳にしていたが、そろそろちゃんと考えるべきだ。
鋼の錬金術師の作中年齢はたしか15、6歳。以前俺が見た最年少国家錬金術師に関する新聞記事の情報からすると、間もなく原作開始時期になる。
あいかわらず自分の身がかわいいので、原作開始後はできるかぎり東部方面に関わりたくない。
外野のままで動くならこれが最後のチャンスだろう。
気になっているのはただ一点、知人の安否。
怪我ならいい。欠損でなければ俺が治せる。だが、死なれてしまってはどうにもならない。
ホークアイ中尉やブレダは原作でも怪我一つなかったはずだし、マスタング大佐も後遺症が残るほどの怪我はしていなかった。
ディムナがジャン・ハボックの代わりだとすれば、あいつも重症は負うが死にはしない。
話のとおりに事態が進むとは限らないのは分かっているが、少なくとも南部でドンパチやってるよりは生存率が高いだろう。
問題は、原作で確実に死亡しているヒューズ中佐だ。
今のうちに対処すればヒューズ中佐を助けられるかもしれない。
何かに気づいてマスタング大佐に報告しようとしたところで殺されたんだから、一応前々からマークはされてたってことだ。
それでも動きがあるまで手出しはされてなかったわけだし、突然電話しようとしたりせずに知らないふりして普通に行動してたら誤魔化せるのではないだろうか。
「大隊長に相談だな」
元々大隊長は『俺』の世界にアメストリスを舞台にした本があったということは知ってるんだ。
イシュバールにいた頃に魔法に関する件のついでとして大隊長には俺の境遇をぼちぼち話してあって、物語の脇役にジャン・ハボックという人物がいたが魔法も錬金術も使えなかったことくらいは伝えてある。
さすがに当時は原作とまったく関係のない状況だったので本の内容にまでは踏み込まなかったのだが、ヒューズ中佐のことを考えれば改めて覚えている限りのことを話しておいたほうがいいだろう。
記憶が頼りのあやふやな情報でも、うまくすれば大隊長経由で死亡フラグを折れるはずだ。
都合のいいことを考えているとは思う。
自分から原作に関わるのは嫌で、でも知り合いが死ぬのも嫌。だから人に頼る。
他力本願の根性なしって言われたら事実その通りだ。否定はしない。
だが、俺一人が必死になったところで何ができるというのか。
頼みとするべき原作知識はあちこち抜けがある上に記憶も薄れかけているし、その通りにことが進むという保証はない。第一完結するところまで知らないんだから、根本的に展開を変えるなんてことはまず無理だろう。
魔法というチートスキルも所詮は戦場でちょっと役にたつ道具でしかない。大砲や軍医でいくらでも代わりが効く。
錬金術師達のような頭脳もなく一介の少尉に過ぎないこの身にできることなんて、せいぜい知人に警告というか忠告する程度が関の山。
これもまた、言い訳に過ぎないが。
「俺も随分自己弁護がうまくなったもんだ」
きっとイシュバールのおかげだろう。
暗い方へと考えを巡らせかけた時、不意に前の背中が立ち止まった。
肩越しに列の先を窺うと、前の方にいた奴らがあちこちで休んでいるのに気づく。
考え事をしている間に小休止になったらしい。知らないうちに結構歩いてたんだな。
いいタイミングだし今のうちに大隊長と話しておこう。後回しにすると怖気づいてしまいそうだ。
「着いたばっかだから、まだその辺にいるはず……」
お、いたいた。
ぐるりと周囲を見渡して木に寄りかかっている大隊長を見つけ、小走りで近づく。
どうやら一人みたいだし、他の連中はちょっと離れたところで駄弁っている。
密談にはちょうどいいシチュエーションだ。
「すいません、ちょっと大事なお話があるんですけど」
声を潜めつつ真面目な顔で切り出すと、中隊長がひょいと身を起こした。
「ああ、ハボックか。今度は何をしでかしたのかな?クーガーがまた何か壊したとか」
開口一番に人聞きの悪いこと言わんでください。
クーガーがよく物を壊すことについては否定できませんが、俺が何かやらかしたことってないじゃないですか。
「そうでもないと思うけれど」
「だから真面目な話なんですってば。あのですね……」
このままじゃグダグダになりそうだ。
不本意な反応にはもっと文句を言いたいところだが、強引に話を進めることにした。
俺の知っている『この世界を舞台にした物語』のあらすじを、覚えている限りぶちまける。
鋼の錬金術師。二人の兄弟と賢者の石。
マスタング大佐と二人の関係。賢者の石の材料。
内乱に関わった者には無視できない、国家錬金術師の襲撃とその犯人である傷の男の関係。
なにやら悪いことしてそうな怪しいホムンクルスの集団。
その後ろにいるらしい「お父様」とかいう存在。
小休止は時間も短いし、とにかく大事なことだけは伝えようとしたせいでものすごくあちこち端折った説明になった。
とはいってもどうせ元から細かい部分は忘れかけている。
列車強盗だか列車テロだかの話はキメラに関わる悲劇に繋がっていたはずだが、人物名や時期については記憶にないし、 インチキ宗教と炭鉱で大暴れの件にいたっては、どっちが先に起こったことかも分からない。
さすがにヒューズ中佐が殺されたあたりの流れははっきり覚えているものの、それ以降は気が向いたときの立ち読みとネットで読んだ大筋の記憶が頼りだ。
物覚えが悪いと責めてくれるな。何年も戦場やら士官学校やらで揉まれて逼迫した生活送ってきてるんだ。実家に置いてあるノートもなしにこれだけ話せたら上出来だろう。
「どうしてお前はそういうことをもっと早く言わないんだ……」
聞きながらだんだんと表情をなくしていった大隊長が、話が終わった途端に肺を空にするくらい深いため息をついた。
「いやその、色々と思うところがありまして」
早めに打ち明けたら有無を言わさず東部に送られそうだったので。
ごにょごにょと本音を誤魔化しつつ上司の顔色を伺ってみる。
口はヘの字で眉間には深い皺。どこからどう見ても御機嫌はよろしくない。
周りの兵士達はのどかに休憩しているのに、俺達の周囲だけ暗雲が垂れ込めたように沈んだ雰囲気だ。
そりゃアンタの後輩もうすぐ死にますよとか言われたら暗くもなるよな。
たわごととして笑い飛ばせればいいんだろうけど、この人は俺が普通じゃないことを知っているから笑うに笑えないし。
「……ヒューズがマスタングに伝えようとしていたことというのは?」
気を取り直した大隊長に聞かれるも、満足な答えは返せない。
「残念ながら見当もつきません」
いやホント、俺が教えて欲しいくらいなんです。
なにせ原作をまともに読んでいないから、作中で説明があったかどうかも分からない。
とりあえず中佐が殺された話の中ではその辺のことがうやむやになっていたはずだ。
ネットのあらすじでも言及されていなかったし、ストーリーが進まないとその秘密は明かされないのかもしれない。まあ書かれていたところで読んでいなければ意味はないんだが。
「そこが肝心なところじゃないか」
呆れたような目で見つめられ、なんとなく目を逸らす。
仰ることはごもっともですけど、文句を言われたところで知らないものは知らないんですよ。
がっかりされたって俺は悪くありません。
だいたいこの先絶対そうなると決まったわけでもないんだ。
俺が話しているのはあくまでも物語の筋であって、このとおりに事態が進むと思ってもらっちゃ困る。
ジャン・ハボックが東部にいない時点で既に原作とは違ってきてるし。
空いたポジションを埋めるかの如く、原作ハボックと同じく現場に強そうなディムナが配属されたけど。
これは多分よくタイムスリップ物の小説に出てくる歴史の修正力って奴だと……。
ああ、だめだ。
こんなことそれじゃ俺がなけなしの勇気を出して暴露した意味がない。
ポジティブにいこうポジティブに。最悪の場合を想定しつつも、気持ちは常に前向きに!
「ハボック。ヒューズが殺されたあたりのことをもう一度話してくれないか」
嫌な考えを掻き消すように頭を振ったり気合を入れたりしていると、大隊長に声をかけられた。
いきなり話を振られ、慌てて記憶の糸を手繰り寄せる。
「あ、はい!えーと……」
申し訳ないんですけど、詳しく話そうにも途中からしか覚えていないんですよね。
ヒューズ中佐が職場で何かの書類を見て、書庫かどこかで調べものをしてるうちに重大なことに気がつくんですよ。
で、それをマスタング大佐に知らせようとしたところで女のホムンクルスに襲われます。
その時点では怪我を負いながらもホムンクルスを撃退しますが、相手は殺しても死なない身体なんで息の根を止めるとこまではいってません。
ホムンクルスは放置して、中佐はそのまま手当てもせずに大佐と連絡とろうとします。相当焦ってた感じでした。
一度軍の中から電話をかけようとしたのにそれをやめて外に出て、電話ボックスから東方司令部に電話するんですが、マスタング大佐に電話が繋がる前に……。
「一度軍の回線を使いかけて、やめたのか?」
言い切る前に遮られた。聞き返す声がいやに鋭い。
「はい」
まさかこんなに早く死ぬキャラだと思わなかったからよく覚えている。
手当てに来た女の子の前で受話器をとって、すぐに置いちゃったんだよ。
このあたり、明らかに内部に裏切り者がいるフラグだよな。
大隊長も国軍が色々と後ろ暗いことは知ってたみたいで、表情は厳しいけどそんなに意外でもなさそうだ。
内乱の時からあんまり信用してなかったっぽいし、上につっかかりはしないものの、大総統の演説なんかはかなり冷ややかに…冷ややかに……あれ。
今なんか、凄い大事なこと思い出した。
「大隊長」
ホムンクルス。裏切り者。大総統。連想ゲームのように浮かび上がった記憶。
ああ、なんで忘れてたんだろう。
漫画を読んでなかったとしても、こんな大事な情報は真っ先に思い出してしかるべきだろうに。俺のバカ。
「どうした?」
俺の様子があからさまにおかしかったのか大隊長が訝しげに眉をひそめるが、混乱していて返事もろくにできない。
大丈夫。上がどうだろうと俺みたいな末端には何の関係もない。
事件は東部で起きていて、俺がいるのは南部だ。
覚えている限り、原作で大総統が南部にちょっかいを出したエピソードはなかった。
この状況で俺に、第二中隊に影響がでるとは思えない。
大丈夫。大丈夫だ。
深呼吸を繰り返してなんとか自分を落ち着かせ、心配そうな大隊長の目を見る。
大隊長には伝えておいたほうがいい。
口にするのもためらうような内容で、俺だって人に言われたなら信じがたい話ではあるけれど、それでも。
さあ言え、俺。
「大隊長。―――大総統はホムンクルスと繋がってます」
よし、言った!
「信じられないとは思いますがこれ「ちょっと待ちなさい」……は」
続けようとしたところを片手で制され、言葉を飲み込む。
大隊長は顔色を変えて俺の顔を凝視していた。
長い付き合いになるけど、この人がこんなに動揺しているのをはじめて見る。
こんな話を聞かされれば驚くのも無理はないが、それにしても予想以上に激しい反応だ。
「大総統が、なんだって?」
掠れた声にはショックの色がありありと窺えて、俺の方はそれでようやく我に返った。
自分よりも慌てている人がいると冷静になれるってのは本当だな。
「多分、ホムンクルスと繋がってます」
『お父様』の手下のホムンクルス達は、皆身体のどこかにウロボロスのマークが入っている。
そして、大総統の眼帯の下にはウロボロスのマークが刻まれた眼球がある。いや、義眼だったか。
どちらにしても無関係とは思い難い。
この情報はネットで拾ったものではなく友人に聞いたものだから、ガセという可能性も低い。
そういうことを説明している間に、大隊長はなんとか自分を取り戻したようだった。
まだ表情は硬いが先ほどまでの鬼気迫るような色はない。
「ヒューズはホムンクルスに殺される、と言っていたね」
「はい」
一つ頷いて、必死に記憶の断片をかき集める。
最初に書庫のような場所で仕掛けてくるのは、ラストって名前の女性型のホムンクルスだった。
しかしそいつはそこで一度中佐に倒され退場する。
電話ボックスで中佐を殺したのはラストではなく、姿を変える能力を持った別のホムンクルス。つまりハンヴィーとかいう少年のホムンクルスのほうだ。
アイツが中佐の嫁さんに変身したせいで、中佐は逃げることも反撃することもできなかったんだろう。
「人質か」
「おそらくは」
推測だが、そう間違ってはいないはずだ。
目の前でわざわざ身内に変身したのは、視覚的にどうこうよりも脅しの意味の方が大きかったと思う。
じゃなきゃいくら見た目が妻だったとしても中佐がああも簡単に殺されるとは思えない。思いたくない。
「変身できる奴の基本形態は十代半ばから後半の少年。腰まで届く長い黒髪が目印です」
見た目が自由に変えられるわけだから基本形態にさして意味はありませんが、知っておいて損はないでしょう。
ついでのように付け加える俺の言葉を聞いているのかいないのか、大隊長はじっと顎のあたりを撫でながら物思いに沈んでいる。
何を考えているのかその横顔から読み取ることはできないが、あまりいい内容ではなさそうだ。
「上層部どころかトップが怪しいわけだ。こうなってくるとヒューズの見つけた『何か』が気になるな」
たしかにそれは知りたいけれど、だからといって中佐に命を懸けさせるわけにもいかないだろう。
俺がこうして大隊長に色々と暴露したのは中佐を死なせたくなかったからであって、危ない橋を渡らせるためではないのだ。
ここで好奇心を優先させるのは本末転倒だし、それ以前に俺はそんな危険なことに首をつっこみたくない。
俺の気持ち、大隊長なら分かってくださいますよね?
「――ヒューズには、私から注意をしておく。」
俺の訴えるような視線に負けたのか、大隊長はため息をついてそう言った。
背後の木に寄りかかる大隊長の疲れた顔に罪悪感を覚え、視線を逸らしてなんとなく辺りを見渡せば、散っていた連中が集まってきている。
話している間に休憩の時間が終わってしまったようだ。
休憩なのにちっとも休んだ気がしない。それどころか確実に心身共に消耗している。
これで集結地まで辿りつけるんだろうか……いや、どうあっても行かなきゃならないんだけどさ。
「大総統。ホムンクルス。内部の敵か。これは根が深そうだな」
遠い目をした大隊長が呟いた言葉は、奇しくも俺がついさっき連想した言葉と重なっていた。
◇◇◇
気にかかっていたことは全部ぶちまけたはずなのに、どうにもすっきりしない。
大隊長はあの情報をどう扱うつもりだろう。
聞けば教えてくれるかもしれないが、その勇気がない俺はひたすら頭の中で不安を数えるばかり。
これでちゃんと中佐は助かるのか。俺にとばっちりが来たりしないか。話した内容に間違いや言い忘れはなかったか。
悶々とする胸中。疲労のせいだけでなく、足取りは重くなっていく。
……考えすぎたせいか胃が痛くなってきた。
歩きながら鳩尾のあたりに手をあてて、大きく息を吐く。
と、その時。不意に背後からはずんだ声がかけられた。
「隊長!隊長ッ!」
足を止めずにちらりと視線を走らせれば、満面の笑みのクーガーが滑り込むようにして隣に並んだ。
体力馬鹿だけあって疲れの色は全くといっていいほど見えない。
それどころかやけに嬉しそうだ。尻尾があったら見えないくらいの速さで振っているだろう。
「なんだ。随分と御機嫌だな」
人がこんなに鬱々としてるってのに。
零れそうになった後半のセリフを辛うじて飲み込む。
前線を離れられるんだからクーガーが喜ぶのは当たり前なのに、つい口調がキツくなった。
八つ当たりだな。我ながら大人げない。
幸いにもクーガーは俺の言葉の棘に気づかなかったようで、浮き立つような声音で俺に話しかけてくる。
「サウスシティについたらブラックウィドウ先輩が、いいところにつれてってくれるそうです」
いいところ?
「ぼったくりなしの優良店、だそうです。よく判りませんけど隊長も一緒に行きませんか!」
にこにこしながら誘ってくるクーガーの後ろで、ブラックウィドウがニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべている。
これはあれだな、綺麗どころのいるその手のお店。
美人のお姉さんたちと美味しいお酒を飲むのか、その先までご一緒できるのかは分からんが、少なくともクーガーはまったく気づいていないと見た。
「昔馴染みと旧交を温めるついででさァ。隊長も、ぜひご一緒に」
この性質の悪そうな笑顔は確信犯だ。
さては行った先で大慌てするクーガーの後始末をさせる気だな。
お前の魂胆は分かってるんだ。その手には乗らないぞ。
「お願いします」
……口が勝手に返事をしてしまった。
うう、誘惑に勝てないこの若い体が憎い。
中身の方はそろそろ分別がついてもいい年なのに。
「やった!じゃ、楽しみにしてますね!」
敗北感を感じる俺を余所に、クーガーは小さくガッツポーズすると軽やかな足取りで列へと戻っていった。
後ろから着いていくブラックウィドウが、何か話しかけてはクーガーの後頭部を小突いている。
あのまま戻ったらセントリーに二人してうろちょろするなと叱られるかもしれない。
イシュバールでも東部でも南部の国境でも。どこにいても変わらない、ハボック分隊のいつもの光景だ。
あいつらにとってはきっと、大総統がホムンクルスだろうが妖怪人間だろうがどうでもいいに違いない。
「……ま、たまには部下に奢ってやりますかね」
胃痛はいつのまにか消えていた。
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- おぉ、秘技"しぼうふらぐくずし"…。いつも楽しく読ませてもらってます。
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更新お疲れ様です
ザンジバル あー、紹介された店が強欲のところだったりするんですかねぇ。つぅか、この憑依ハボックの運のなさと原作キャラとの遭遇率を鑑みるとそれ以外の展開が予想できないというか、それ以外だとウソでしょう。
……でも、ハボック的にはその方がうれしいよなぁ。
最近微妙に胃を痛めてそうなハボックさんなので、いたぶって……間違えた。いたわってあげてください。
もちろん、作者様のご健勝もお祈りしてます。
頑張ってくださいませ。
aris 楽しかったですv原作?突入って感じですね。
なんで、その手のお店に行ってはいけないのかは
よく分かりませんが、クーガーはかわいがられてそうで、ほのぼのできそうですね!
大隊長はとっても腹黒だと思ってました。
以前は怖かった隊長も、見慣れてくるといい人?
なんだなとしみじみ思えてきます。
今回も、素敵な?ハボックでした。次回もきたいしてますv
ありがとうございましたv
あたしの王子様ですか?☆
はづき 今まで趣味とか仕事に夢中になってて気付いたら一人ぼっちで彼氏いなーい(_´Д`)恋愛からしばらく離れてたから…時々さびしくなっちゃったりするんだよね( p_q)同じくさびしーって人いる?けっこう甘えたりするところがあるから大人の人が好きだよ☆だから、年下はゴメンネ(。-人-。) メアドつけておくから気に入ってくれたらメールしてね!待ってまーす hahahanoha88@docomo.ne.jp
ROプレイヤー鋼錬を往くについて
サイトのMENUページにログへのリンクを張りました。
初めていらっしゃった方、久しぶりにおいでの方はそちらへどうぞ。
なお裏設定等については残念ながら上記のページには残しておりません。
本編読了後に興味をお持ちになられた方は、当ブログ内にありますカテゴリ「ROプレイヤー鋼錬を往く プチネタ」をご参照くださいませ。
また、本編作成後の後書き等は更新直後の記事にありますので、お手数ですがこちらでご覧いただければと思います。
今年もあと数時間で終了です。
職場が異動になったり、酷い風邪をひいたり、布団を干しておいたら雪が降っていたりと色々ありましたが、なんとか一年を無事に終えることができそうです。
一ヶ月に一度程度しか更新しない拙宅に遊びに来てくださった方々には感謝の念でいっぱいです。
今年一年本当にありがとうございました。
どうか皆様、良いお年を。
店内を照らすオレンジがかった灯りを見上げ、桐子はためいきをついた。
山羊屋に着く前にモウリョウの群を掃討する羽目になったり、扉を開けた瞬間に店主を見たルイズが絶叫したりと多少のアクシデントはあったものの、今はなんとか店の隅に腰を落ち着かせている。
ここにいれば悪魔は襲ってこないし、じっとしていれば朝までには体力も回復するだろう。
掘っ立て小屋のような店舗には椅子などなかったが、桐子は元より育ちのよさそうなルイズも不平を述べることなく床に座り込んでいた。
いや、これは文句を言わないんじゃなくて言えないのかな。
両足を無造作に投げ出し無言で床を見詰めるルイズの様子に顔をしかめた。
肉体的にも精神的にも随分疲弊している。
ちょっと一押ししたらたやすくアッチの世界の住人になってしまいそうだ。
「ルイズ、大丈夫?」
小さな声で恐る恐る話しかけてみると、白い顔がゆるりと桐子の方に向いた。
う、幽鬼ポルターガイストって感じ。
女の子に対してあんまりな感想だったが、虚ろな目から受けるイメージはたしかにアレに似ている。
泣くでも怒るでもない仮面のような無表情。
ルイズの容貌が愛らしく整っているだけに、かえって雰囲気は凄惨さを増しているようだ。
「……大丈夫じゃなさそうだね」
異様な空気をかもし出すルイズからぎこちなく目を逸らす。
正直もう一度話しかけるのは気が進まない。
だが、このまま二人で朝まで黙り込んでいるのはあまりに不毛だ。
ルイズが知らなかった『常識』についても説明したいところだし、この重苦しい空気もなんとかしたい。
よし、頑張れ桐子。
自分に言い聞かせると、桐子はできる限りさりげない口調を心がけて口を開いた。
「ま、まあ時間つぶしと思って聞いてよ。デビルバスターっていうのは―――」
デビルバスターは職名である。
誤解されがちだが、たとえ悪魔が召喚できたとしてもライセンスを得ていない者はただのサマナーであってデビルバスターではない。
悪魔召喚プログラムを扱うことができて、一定以上の武力を持ち、共同体社会の中のデビルバスター管理機関で試験を受けてDBライセンスを取得した者がデビルバスターなのだ。
「でも多分たいていのサマナーはライセンスを取るんじゃないかな」
管理機関に所属すると非常時の都市防衛などの義務が生じるが、代わりにDBネットの利用、特殊な道具の売買、最低限の報酬の保証、転送装置の使用など、さまざまな便宜が図られる。
日常的に命をかける職業であるだけに、それだけの利便性が得られるならば多少の身の危険は問題ではない。
「ちなみに、仕事の内容は物凄く幅広い。というか人によって違う」
管理機関の関係者や不特定の個人からの依頼をこなすのが基本ではあるが、その中身は千差万別。
悪魔の討伐に人捜し、学術調査の手伝いに遠方へのお使い、悪魔から依頼を請けることも少なくない。
特定の専門分野を持つデビルバスターが荒事に無関係な仕事を引き受ける一方、さしたる依頼を受けるでもなく自己の研鑽のために悪魔を倒し続けるデビルバスターもいる。
「傭兵とか探偵とか、まあようするになんでも屋なんだよ。悪魔専門の」
戦う戦わないに関わらず、とにかく悪魔がらみの問題に対処するのがデビルバスターの仕事なのだ。
「悪魔……森で襲ってきたようなの?」
ウィスプに追いかけ回されたのを思い出したのだろう。
思わずといったように苦々しげに呟いたルイズを見て、桐子は困ったように苦笑した。
嫌なことを思い出させて悪いとは思うが、やっと反応が返ってきたことに少し安心する。
いくらなんでも延々と一人で話続けるのは空しすぎるだろう.。
「ルイズを襲ったのはウィルオウィスプ。ここに来る途中群れてたのはモウリョウ。どっちも悪魔だ」
ナカノ樹海に現れる悪魔の中では、ウィスプとモウリョウは最も弱い部類だ。
それでもルイズは死にそうになったし、一般人や新米のデビルバスター候補が実際に命を落とすこともある。
「そもそも悪魔ってなんなのよ」
まずはそこから話すべきだったか。
どうやら本腰を入れて話を聞く態勢に入ったらしいルイズを前に、桐子も姿勢を正した。
見上げるルイズの目を見つめながら、昔教わったことをなぞるようにゆっくりと話しはじめる。
「神も天使も妖精も、デビルバスターにとっては悪魔だ。人種が違っても人間を人間と呼ぶようにね」
大雑把に説明するなら、マグネタイトによって実体化するものは全て悪魔だ。
そこには生地も種族も宗教も一切関係がない。
邪悪で破壊的な悪魔もいれば、友好的で秩序を重んじる悪魔もいる。
「マグネタイト…」
「人間と悪魔が持っている特殊なエネルギーだよ。悪魔を召喚するには絶対必要な……食事みたいなものかな」
素人に生体マグネタイトだの不活性マグネタイトだのといっても分かるまい。
というか当のデビルバスターだとてマグネタイトがどういったエネルギーなのかよく理解できてはいないのである。
一説によると人間の感情をもとにした精気のようなものだそうだが、実際のところはたしてどうなのか。
桐子が身をもって知っているのは、それが悪魔を実体化させているということと、悪魔をぶっとばすとCOMPが勝手にMAGを収集してくれるということだけだ。
「それを栄養にしたら全部悪魔になるの?随分といい加減な分類ね」
ルイズが呆れたように文句を言った。
「否定はしないけど、そう呼び始めたのは昔の人だから」
具体的に言うならば1990年代、悪魔召喚プログラムの開発者が決めたことだ。
まず悪魔という枠があり、その中で13の大種族に分類され、大種族はさらに小種族へと分かれているのだが、桐子にはそこまでつっこんで説明する気がなかった。
「とにかく、話を続けるよ」
普通の人間にとって、悪魔は善悪を問わずあまり関わりあいになりたくない相手だが、デビルバスターはその限りではない。
むしろ忌避するどころか積極的にコンタクトを取ろうとする者の方が多いだろう。
なぜならデビルバスターにとって悪魔は『飯の種』だからだ。
デビルバスターはCOMPにインストールされた悪魔召喚プログラムを用いて悪魔と交渉することができる。
成功の可否は力量次第だが、それが一番ポピュラーかつ手っ取り早い仲魔の増やし方であり、それ以外となるとあとは依頼の報酬を狙うか、もしくは同じデビルバスターの仲間に手伝ってもらうかだ。
「契約が成立すれば悪魔はデビルバスターの仲魔になってくれる」
仲魔の存在こそがデビルバスターの特徴と言っても過言ではない。
悪魔を倒すために仲魔と共に戦う存在、というのが世間一般のデビルバスターに対するイメージであり、おおむねそれは当たっている。
もちろん戦闘ではなく生産、製造によって日々の糧を得ているデビルバスターもいるが、彼らとて悪魔と接しないわけではない。
「仲魔……使い魔とは違うの?」
真剣な面持ちでルイズに問われ、桐子は腕を組んで天井を見上げた。
「うーん。比較しようにも、使い魔ってのがどういうものか分からないしなあ」
桐子の使い魔のイメージといえば、おとぎ話の魔女が連れている黒猫や蝙蝠や梟の類だ。
あとはそう、たしかいつだったか動物や低級霊を支配下において偵察をさせるような話を聞いた気がする。
デビルバスターとはいえ、魔法主体で戦う魔型ではない人間の知識などこんなものである。
「使い魔はどうか知らないけど、仲魔は戦闘でこそデビルバスターに従ってくれても基本は対等なんだよ」
彼らは契約したデビルバスターを『マスター』と呼び主人として扱ってくれるが、召喚者に対する視線は案外シビアだ。
仲魔を思いやり尊重していれば彼らはデビルバスターを信頼してくれるし、絆を結ぶことも出来る。
心や感情に存在が依存しているためか、デビルバスターとの結びつきが強くなればなるほど仲魔は力を増し、デビルバスターを助けてくれる。
反面、盾代わりにしたり物のように使ったりしていれば仲魔はやがてデビルバスターに殺意を抱くようになる。
ちになみにシビアなのはデビルバスターのほうも同じで、仲良くなった仲魔を合体させたり魔晶に変化させててしまったりと対応の厳しさでは悪魔を上回る。
悪魔もそれを承知で契約しているのだから文句はないのだろうが。
「桐子にも、その、いるの?」
おずおずとしたルイズの問いに、桐子は微笑んでこたえる。
「もちろん!ルイズと会った時は移動中だったから召喚してなかったけどね」
フィールド内をウロウロしている敵と同じ種族なのでCOMPに戻していたのだ。
いくら絆を結んだ仲魔とはいえ、いや、それだからこそ同種族で殺し合いをさせるのは気が引ける。
COMPの中には騎乗させてくれる仲魔もいるのだが、新宿バベルを出た時に使った移動速度を上げる玉がもったいないので一人で抜けるつもりだった。
貧乏性かもしれないが、どうぜ接近戦を行わないガンナーの身、周囲の警戒を怠らなければ早々死にはしない。
「……いいなあ」
桐子の笑みに何を見たのか、ルイズは羨ましげに溜息をついた。
伸ばしていた両足を引き寄せ、まるで何かから身を守るように膝を抱えて小さくなる。
心配そうに眉を寄せた桐子から目を逸らすと、ルイズは躊躇いながらもゆるゆると口を開いた。
「―――私、使い魔が欲しかったの」
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MA 基本子供で、虚無系統への強化アイテムの無いルイズ。大破壊後に強く生きていけるのか。
コンゴトモヨロシクといってるガンダールヴ・サイトが合体事故かなんかで仲魔になったりするんだろうかw
レスでーす
ダナエ MA様
コメントありがとうございます。
子供な上にコンプレックスからちょっと性格が激しいですからね彼女は。
しかし頭が良くて努力家で一応現地人がいるからにはなんとかなるかと。
まあ人生観はかなり変わるでしょうが……。
スライムが出てきて名前がサイトだったら笑えると思います。やらないけど。
昨日、今日とほぼ家に引き篭もっておりました。
明日は窓ガラスの拭き掃除の予定です。
年末はどこにも行く予定がないぜ……!
つーことで、イタリア南部の気候を参考にRO鋼錬で年越しネタの短文を書いてました。
調べてみたら温暖なイメージが強いシチリアあたりでも冬には雪が降るとのことだったので、安心して冬ネタのプロット立てつつ原作確認してたら、ビックリな記述を発見。
『南部(ここ)なら凍死の心配もいらない』
……あれだね。ちゃんと裏づけとってから動き出さないとだめだね。
残念ながらボツです。今年は年越しSSはなしだな!!1!
ちなみに今年最後の更新は相変わらずグダグダなBASARAネタと超絶短いゼロIMA3。
1月はRO鋼錬のつもり、です。一応。
斜めに傾いたテーブルの下で、隊長が微動だにせず眠っている。
胸にヘルメットを抱えて丸くなる姿はまるで抱卵でもしているかのようだ。
壁際の定位置にはクーガーが木箱を被って横たわっており、その隣りではブラックウィドウが銃の手入れをしている。
鼻が詰まってでもいるのかピーピーと奇妙な寝息を立てていたクーガーが、口の中では何事かを呟いた。
「テーブルを蹴飛ばしてぶつけたくなるな」
思わず零れた呟きに、ブラックウィドウが手を止めた。
「そっとしといてやりましょうや。クーガーはともかく隊長がかわいそうだ」
苦笑しつつ窘める声は、二人を起こすまいとしてか随分と小さい。
「なにしろ起きたら前進壕へ電話線引きに行くっつう話ですからね」
ああ、伝令がやけに交通壕をうろついていたが、あれは有線が切れたからか。
前進壕は大規模な戦闘がなくても危険な場所だ。
比喩でなく『弾が避けてとおる』隊長ならともかく、普通の兵士にとっては通信線の敷設に死の危険が伴う。
仮にも士官が通信兵の真似事をするのはどうかと思うが、こういった仕事が隊長に回ってくるのも仕方がないのだろう。
第三中隊は一昨日の戦闘で生存者六人のほぼ壊滅。
私と隊長が援護に向かった第一中隊は辛うじて無事だったが、うちの中隊でも戦友が何人も死んで、大隊は崩壊寸前だ。
隊長に限らず仕事を選んでいられる状況ではない。
「しかし、ただでさえ御本人に士官としての自覚が足りないというのに、こうも便利に使われると……」
それを助長しているようだ、と呟いてヘルメットに頬擦りしている気の抜けた顔を見る。
士官学校まで出ておきながらいまだに下士官程度の意識しかないのは、隊長だけでなく周囲の扱いにも問題があるように思う。
一応中隊長の許可を得てから行動しておられるようではあるが、何か頼まれると簡単にほいほい引き受けてしまう軽さもよくない。
今は仕方ない。それは分かっているが。
「せめてもう少し威厳というか上位者らしい態度をとってもらいたいものだ」
あまり兵との距離が近すぎると出世した時に辛かろう。
退避壕の横に並べられた死体を見下ろす隊長の顔を思い出して、ため息をつく。
「あの性格じゃあ無理ってもんでさ。ふんぞり返ってみたところで三文芝居に見えるのがオチだ」
わざとらしく威張ってみせる隊長を思い浮かべでもしたのか、ブラックウィドウはケラケラと笑った。
言われてみると確かに隊長には似合わない。
もっとも似合う、似合わないという以前に隊長が偉そうにしたがるとは到底思えないのだが。
「偉そうといえば」
頭に浮かんだ些細な言葉から、ふと昔のことを思い出した。
時間つぶしになんとなく話しはじめる。
「以前の上官に、無能な癖にやたらと地位を誇示する男がいてな」
興がのったのか、ブラックウィドウがしたり顔で相槌を打つ。
「ああ、そういう奴ァどこにでもいるもんですな。たいてい戦場じゃ役立たずで」
そう、さして珍しくもない。
似たような人間をイシュバールで何人か見たし、大隊にも思い当たる者がいる。
能力もないのにやろうとする。部下を不必要に貶める。必要以上に偉そうに振舞う。自分の失敗を認めない。
この手の輩は見ているだけでも非常に不愉快ではあるのだが、それでも自分に被害が及ばなければ放置していただろう。
しかし相手がこちらを敵視して攻撃してくるとなれば話は別だ。
「私にやたらと嫌がらせをするから、ある日証拠を揃えて不正を密告してやったんだが」
あの時は実に爽快だった。
私の告発に端を発した調査はその後予想以上に拡大し、不愉快な元上官の罪状は最終的に両手の指の数を超えた。
元上官が更迭されるにあたって芋づる式に何人かの士官や下士官が姿を消したが些細なことだろう。
彼らはたいていの兵士から嫌われていたので、同僚達はこぞって酒を奢ってくれたものだ。
「しかしその後がまずかった」
「というと?」
「次に来た上官から理不尽な懲罰で降格されて、東部に左遷だ」
元上司と繋がってでもいたのか、それとも単に目障りだと思われたのか。
お恥ずかしながら、その頃の私はまだ脇が甘かったのだ。
今ならばもう少しうまくやる自信がある。
ともあれ私は二等兵に逆戻りして東部へ向かうことになった。
イシュバールにおける兵の消耗率を考えれば、そこへ行けという命令は死刑宣告に近い。
腹いせに新しい上官の悪い噂を広めつつも、列車に乗り込んだ時には死を覚悟していた。
「そこにきて、乗っていた列車が襲撃された」
ブラックウィドウはその頃まだ別の隊にいたが、列車が襲撃されるというのはよくあることだったから想像はつくだろう。
私にとっては隊長と出会うと同時にその異能を身を持って知ることになった忘れられない大事件なのだが、当時は弾薬列車の爆破や補給のための輸送列車を狙った強奪は日常茶飯事だったのだ。
「人生の転機ってェ奴ですな」
「転機どころか危うく人生が終了するところだったが」
乗っていた車両が襲われ、同乗者達は皆外に出ることさえできずに死んだ。
戦場どころか敵の姿さえ見ることなく、暗い箱の中で外から撃ち殺された哀れな兵士達。
今だからこうして語っていられるが、私もまた深い傷を負い、命を落としかけた。
それをついうっかり拾ってしまったのがジャン・ハボック隊長だ。
「拾ったからには責任を取っていただかなくては」
「同感でさァ。そのためにも隊長にゃせいぜいお元気でいてもらわんと」
二人して視線をテーブルの下へと向けた。
隊長はあいかわらず夢の中だ。
ここがどこかも忘れたような表情で惰眠を貪っている。
起きたらぶつぶつと文句を言いつつも前進壕へと向かわれるのだろう。
威厳に欠け、覇気がなく、下っ端根性がどうにも抜けきらない年若い上司。
欠点がないとは言わないが、それでも私達にとってはまたとない上官だ。
「隊長のうっかりは私達がフォローしてさしあげよう」
私の言葉に頷いて、ブラックウィドウがそっとライフルの銃身を撫でる。
「ほっといたら危なくてしょうがねえ。まあせいぜい二人で面倒を見てやりやしょう」
勝手なことを言う私達に抗議するように、隊長がひとつくしゃみをした。
◇◇◇
「やあ、ちょっとお邪魔するよ」
友人宅に遊びに来たような軽い挨拶に振り返れば、そこにいたのは中隊長だった。
ハボック隊長は前進壕へ向かわれ、クーガーが備品の運搬のために駆り出され、私達も持ち場に移動しようとしたところで突然の来訪。
事後処理で忙しい時にどうやって時間を作ったのかは知らないが、まるで狙ったようなタイミングだ。
いや、実際に二人がいなくなるのを見計らって来たのかもしれない。
「私とブラックウィドウは胸壁の補強に行かねばならないのですが」
「大丈夫、大して時間はかからないから」
無駄な足掻きはやはり無駄だったようだ。
壕を出ようとしていた私達を強引に中に連れ戻し、無造作に壊れかけた椅子に腰掛ける。
さりげなく無言のうちに兵を従わせる雰囲気はさすが士官というべきか。隊長とは大違いだ。
階級や年齢の差なのかもしれないが、しかし隊長が中隊長と同じ年、同じ階級になったところでこの重みが身につくとはとても思えない。
「何か問題でもありましたか」
脳内で二人の上官を比較しつつ尋ねれば、返ってきた穏やかな声には不穏な響きが潜んでいた。
「少しばかり相談事があってね」
含みのある言葉に、ブラックウィドウが警戒するように片方の眉を動かす。
相談事とやらの中身を察したのだろう。
中隊長と、私と、ブラックウィドウ。隊長とクーガーは除外。この面々で話し合うことといったらまず間違いなく後ろ暗いことだと相場が決まっている。
中隊長が表情を引き締め、口を開いた。
「文書はまだ来ていないのだけれど―――近々、後方に戻ることになると思う」
唐突な発言だが、聞き逃せない内容だ。
「……そりゃあまた」
僅かな間の後で、ブラックウィドウは口の端にわざとらしい作り笑いを貼り付けた。
その露骨さを咎める気になれない程度には、私にも思うところがある。
「増援ではなく交代ですか」
その手の噂は二ヶ月前から流れているが一度も実現してはいないのだ。
今では誰もがこのネタにうんざりしている。
膠着状態だった戦況はここ数週間で一気に悪化した。
まだ国境線は隊長たちが落下した謎の穴より数キロばかり押していたが、それも風前の灯だ。
私達だけではなく、この戦闘区域全体がもはや戦線を維持することもできないほどに疲弊して、打ち砕かれ、いまにも崩れそうになっている。
それでも今まで、増援はなかった。
「確実な話なんですね?」
中隊長がこうして口に出すからには信頼の置ける筋からの話なのだろうが、そう問い返さずにはいられない。
またしても期待しながら何ヶ月も裏切られ続けるのは真っ平だ。
「ほぼ間違いない、といったところかな」
首肯して、さらに続ける。
「上の方に身内がいて、気まぐれに情報を流してくるんだよ。私はあの人が大ッ嫌いなんだけれど、今のところガセネタをつかまされたことはないから」
中隊長らしくもなく言葉の端々に嫌悪感が滲んでいる。よほどその身内が嫌いなのだろう。
しかし、個人的な感情はその内容に関わりがない。
大事なのは、ここからやっと離れられるということ。
この煙と汗と埃と死臭から逃れられる。
無言で戦友の遺体を拾い集めることもなく、遺品をかき集めて袋に詰め込むこともない。
暖かなシャワーを浴びて、出来立ての食事をとり、洗ったばかりの服を着て、柔らかなベッドで眠るのだ。
だが、その前に。
「それで、俺達に何をさせたいとおっしゃるんで?」
心なしか低くなった声で、ブラックウィドウが私の気持ちを代弁した。
ただ後方へ戻ることを告げるためだけに私達を呼び止めたわけではあるまい。
それならば隊長やクーガーがここにいてもかまわないはずだ。
私は黙って両手を後ろに組み、上官の顔を見つめた。ほんの束の間、視線が交差する。
「……他ならぬお前達に、調べてもらいたいことがある」
中隊長が、懐から取り出した煙草の箱をトンとテーブルに立てた。
「東部にいた頃から、軍の意図するところが分からないという話は現場の士官の間で囁かれていた」
声音は堅く、抑揚の少ない話し方からは内面を読み取ることができない。
こころもち目を伏せた中隊長は、まるで機械のように淡々と言葉を紡いでいく。
「なぜ殲滅せねばならないのか。焦土にする必要があるのか。死なせすぎではないか。人間だけじゃない、軍備だって馬鹿にならないんだ。どうしてここまでしなければならない」
別にその疑問は士官だけに限らない。
殲滅戦の末期は余計なことを考える暇などなかったが、それでも軍に不審を抱く人間は多かった。
内乱終結後にそれを理由として退役した者もいる。兵士とて馬鹿ばかりではないのだ。
「戦争というのは、費やす物以上に得る物がなければやる意味がないだろう」
ごもっとも。
ブラックウィドウが小声で合いの手を入れた。
戦争とは政治における手段の一つである。例外はあるにせよ、概ねそれが一般的な認識だろう。
その考えからいくとイシュバールの内乱に対する軍の対応は奇妙と言わざるをえない。
同じ鎮圧にしても、もっとやりようはあったはずなのだ。
「南部の戦いもおかしい」
ほんのわずか、中隊長の声に苛立ちが混じる。
今まさに渦中にある身だけに、さすがに感情を抑えきれなかったようだ。
「兵力の分散、戦力の逐次投入、状況判断の誤り。なぜか更迭されない指揮官。その結果がこのざまだ」
鋭い批判には一片の容赦もない。
『このざま』か。
外に広がっているだろう惨状は、確かにそう呼ぶに相応しい光景だ。
旅団本部は戦況が分かっているそうだが、本当にこの場所が、私達がどうなっているのかはこの場にいる者達にしかわかるまい。
「東部の内乱も南部の国境戦も、上層部の迷走にしては一貫していないか。『損害を拡大させる』という点で」
内乱とこの戦争が、何がしかの理由で繋がっていると?
「裏づけはないが、殲滅戦には錬金術に関する実験が絡んでいる、という話も聞いている」
思わず中隊長の顔を凝視するも、それを無視して上官は話し続ける。
「以前フォトセットの北にいた頃もこうだった。そして今回も、となると―――」
ブラックウィドウがその先を浚った。
「三度目もこうである可能性が高い」
得たりとばかりに中隊長が深く頷く。
ここまで言われればよほどの馬鹿でない限り何を求められているかは分かる。
同じ疑問は私とて抱えているし、危険についても戦地で死ぬ確率に比べればとるにたらない。
私はこの調べ物を引き受けるのもやぶさかではなかった。
ただし聞きたいことに答えてもらえるならば、だ。
「どういう心境の変化ですか」
内乱の頃からずっと軍の内部への深入りを避けてきた中隊長が今さら考えを変えた理由が知りたい。
東部では同じように軍の方針に疑問を持ちながらも口を噤んでいたというのに、なぜ今になって動こうとするのか。
「次に前線に送られて死なない自信は無い」
そっけない返答だった。
内乱を乗り切り、南部に配属になってすぐ最前線へ。
それから一度後方に戻り、隊長とともにもう一度戦場へ。
今また地獄から抜け出したとして、再びこの悪夢の地に放り込まれないという保障はない。
しかしそれだけではあるまい。
「……例のトンネルのことが気にかかる」
私とブラックウィドウの四つの目に負けたのか、中隊長はしぶしぶ口を割った。
例のトンネルといえば、隊長たちの落ちたあの穴のことだ。
中にいた得体の知れない化物のこともあって私もあれについては気になっていたのだが、まさか何か掴んだのだろうか。
「まだ何も分かってはいないよ。ここから中央の様子を伺うのは限界があるし」
問うまでもなく先んじて答えてから、中隊長は苦笑とも自嘲ともつかないあいまいな笑みを浮かべた。
躊躇うように目を伏せて囁く。
「ただ、知らないうちに酷く大きなことに巻き込まれてる気がしてならないんだ」
それは、前線で兵士が感じているものとは違うのだろうか。
誰かの思惑に翻弄されるという立場は同じだと思うのだが。
「根拠は」
「ない」
やけに力強く断言されて、ブラックウィドウが噴出した。
「つまり勘だと」
「笑うか?」
見つめ返す表情はこれ以上ないほどに真剣だ。開き直りではなく、己の勘を信じている。
私は笑わなかった。
中隊長が何度も死線を潜り抜けてきたことを知っているからだ。
死地を脱して生き残った人間の勘は、根拠はなくとも馬鹿にしたものではない。
「……ま、いいでしょ」
先に動いたのはブラックウィドウだった。
テーブルの上に立てられた煙草の箱をひょいと取り、軽く叩いて一本取り出す。
懐を探って煤けたライターを引っ張り出したところで、私は横からその箱を取り上げた。
向けられた視線を無視して同じように煙草を一本抜き取る。
ブラックウィドウが目の前に差し出したライターで火をつけ、深く息を吸って、吐いた。
「私達では上層部まで手が届きませんが」
私達の答えに対して、紫煙の向こう側で中隊長が満足げな笑みを浮かべる。
「幸いにして、出世頭や中央で働いている後輩がいる。顔の広い同期の手も借りられるし」
どうやら上官は一人で動いているわけではなかったようだ。
今挙げられた方々には私も心当たりがある。
手を貸してくれる同期というのは第一中隊の中隊長であるハーミス大尉のことだ。
大尉は私達が東部で燻っている間中央にいたはずなので、中隊長より各方面に顔が利く。
出世頭は東部のマスタング大佐で、中央の後輩といえば、これはおそらくヒューズ中佐か。
第二中隊が東部にいた頃に何度か中隊長と三人で話しているのを見たことがある。
マスタング大佐はともかくヒューズ中佐とはほとんど面識がないのだが、半年ほど前に隊長のところに娘を自慢するやたらと長い手紙が来ていたはずだ。たしか今は情報将校だったか。
「んじゃあ俺ァ下っ端連中に話を聞いてきまさァ」
ブラックウィドウがニヤリと笑う。
トンネル事件はともかく上層部の妙な動きについては前々から気にしていたので、いつになくやる気だ。
下っ端連中と言ってはいるが、この男の情報源は兵士だけにとどまらない。
胡散臭い『昔なじみ』とやらの伝手を辿って、なにがしかの成果を上げてくるだろう。
「では私も各方面に探りを入れてみましょう」
私はいつもと同じように淡々と告げた。
中隊長やブラックウィドウのように特殊な情報源を持っているわけではないが、長らくこの仕事についていればそれなりに横の繋がりというものもできる。
「下士官は軍隊の背骨」という言葉は伊達ではない。
私達の言葉を聞いた中隊長は一つ頷くと椅子から立ち上がった。
特に指示はないということだろう。その方が動きやすくはある。
倒れそうな椅子に手をかけている上官を前に、煙草を踏み消して姿勢を正し、改めて手を背後で組んだ。
「最後に一つよろしいでしょうか」
立ち上がった中隊長が、ゆるりと首を傾ける。
「言ってごらん」
一言促されて、遠慮なく質問を投げかけた。
「なぜ、隊長を交えなかったのですか」
中隊長の子飼いと呼ばれる旧ハボック分隊の中で、最も情報処理能力が高いのは隊長である。
隊長のデスクワークにおける能力の高さは隊内外の誰もが認めるところだ。
紙の上での仕事ならば、まず間違いなく私達より手際よく作業を進めるだろう。
「ここが中央か、せめてどこかの司令部だったならハボックも引っ張り込んだんだけどね」
肩を竦めての発言を打ち消すように語気を強める。
「戦地では能力が半減する、と?」
近く後方に戻ると言ったのはあなたではなかったか。
その場限りの言い逃れを咎めるように眉をひそめれば、中隊長は苦笑いとともに小声で答えてくれた。
「……事が後ろ暗くなるとあれには向かない」
たしかに、隊長は御自分が思っておられるほどそういった方面に強くはない。
世間ずれしていないというわけではないし、世の中が綺麗ごとばかりで成り立っていると思っておられるほど純粋でもないのだが、組織特有の暗さとはまるで縁遠いイメージがある。
軍の内部に、表にはけして出ることのできない闇があるのだと知ってはいても、本当の意味で理解はできないタイプだ。
適正の問題。そう説明されれば、納得できないこともない。
しかしそこに中隊長の親心ならぬ上司心とでも言うべきものがあるように、私には思えた。
「了解しました」
本来ならば怒るべきかもしれない。
だが、ブラックウィドウが隣で薄い笑いを浮かべているように、私もまた抵抗なくその意を受け入れた。
多分この人選には、私達がそうするだろうという予想も含まれている。
聞くところによると隊長は中隊長がはじめて持った部下の最後の一人だそうだから、それなり以上に思い入れがあるのだろう。
私もブラックウィドウも、隊長やクーガーにはこういった浮世の闇からできるかぎり遠くにいて欲しいという身勝手な願いを抱いている。
この点では合意に達しているのだ。この場の三人は。
つまり、全員が過保護なのである。もちろん自覚はあるのだから何の問題もない。
「調べてもらいたいとは言ったけれど、無理はしないでいい。いざとなったら逃げなさい」
脱走も是とするような言を聞きながら覚悟を決める。
私も、戦友も、上官も、戦って破壊するためにここにいる。
それが兵隊の仕事だからだ。
中央のどこか安全な場所から、老いた将軍達が盤上の駒を弄ぶように私達を戦場で翻弄したとしても、それもまた兵士の運命だ。
だが、それ以外の用途で勝手に私達の命を使われるのは納得がいかない。
「確かに、承りました」
射抜くような目でこちらを見る中隊長に、私は久々に気合いの入った敬礼で応えた。
◇◇◇
詰め込むようにして食事を終え、異様に酸味の強いコーヒーを啜る。
舌が痺れるような味だが今は文句をつける気にはなれない。口に入れる物があるだけ幸運だ。
ブラックウィドウはいじましく唇に火がつく寸前まで煙草を吸ってから歩哨に立ったが、さて、今夜も戦闘があるかどうか。
昨日はうちの小隊からも死者が出た。
まだ若い二等兵、去年配属になった一等兵、それにイシュバールからの付き合いだった伍長。
ブラックウィドウとポーカーをしていたあの男は、顔が半分なくなっていた。
もし今晩も戦うことになったら、次は誰が死ぬだろう。
へこんだカップを揺らしながら、中の液体を覗き込む。
黒々として底の見えないそれは未来を暗示しているかのようだ。
私はそれを飲み干そうとカップに口を付け、聞こえてきた声に思わず顔を上げた。
「なんでもいいから前を見て歩け!」
叱り付けるような声の持ち主が誰なのか、姿を見なくても分かる。
「ちゃんと見てまッ……あいたた……」
不満げな反駁、何かにぶつかるような音。
俄かに壕の外が騒がしくなってきた。
「ほれみろ。注意力が散漫だからそうやって何度も同じ場所で頭をぶつけるんだ」
「お、俺だって気をつけてるんです。気をつけてるんですよ!」
「嘘だ!」
「ええっ!全否定!?」
ポンポンと交わされるくだらない言い合いに、疲れきっていた部下達がかすかに苦笑した。
これが成人男性が戦地で交わす会話だろうか?
まるで小学校の教室でのそれのようなレベルの低さである。
しかし、どういうわけかこの阿呆な会話に救われるのだ。
皆も、私も。
「二人揃っての御帰還ですか。随分かかりましたね」
おかえりなさいと笑って迎えれば、呆れ顔の隊長がただいまと返し、涙目のクーガーがただいま戻りましたと敬礼する。
そのやりとりを仲間達がどれだけ眩しそうに見ているのか、二人は知らないだろう。
やたらと泥にまみれた隊長がどっかと椅子に座り、私の飲んでいたコーヒーを掻っ攫う。
一口含んで渋面になり、突き返されてやっとそのコーヒーが冷たくなっていることに気づいた。
「このおバカさんが、戻ってくる途中で俺を見つけてタックルかましてくれたんでな」
ジロリと横目で睨んだ隊長に、クーガーが慌てて言い訳をする。
「ちがっ!ただ駆け寄っただけですよ!ちょっと勢い余って滑っちゃったけど……」
反論は尻すぼみになったがその言葉だけで状況がわかった。
なるほど、それでこんなに汚れているのか。
元々泥や埃に塗れていた戦闘服がさらに酷いことになっている。
隊長の機嫌の悪さからすると、突き飛ばされて倒れた拍子に怪我の一つや二つもしたのかもしれない。
いくら治せるとはいっても痛みがないないわけではないそうだから、怒るのは当然だ。
「うっせぇ。ネズミぶつけんぞ」
「生き物はやめてください……だからって死んでてもだめですからね!」
舌打ちする隊長とばつの悪そうなクーガー。
まるで兄弟のような二人を眺めていると自然と顔が緩む。
彼らだけではなく、外に立っているはずのブラックウィドウも、私も、もはや一つの家族なのだ。
泥沼の戦場で絶望の淵に佇みながら、励まし合い、助け合い、寄りかかりお互いを支えにすることでなんとか踏みとどまっている。
私が彼らのために危険を冒すのも当然のことだ。
「おいセントリー、何笑ってんだよ」
時に親とも弟とも思う上官が、いぶかしげな顔をしてこちらを見ていた。
こうして物思いに耽る余裕があるのもこの人のおかげだろう。
第二中隊は守られている。魔法使いの恩恵によって。
「失礼。隊長とクーガーがあまりに面白かったもので」
素直に感謝してみせたところで、この人は笑ってごまかすばかりなのだろうけれど。
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セントリー分濃縮非還元
まかろに なにやらキナ臭さ増量中ですね。
これで中隊長が『いいか? 死ぬなよ!? 絶対死ぬなよ!?』とか言ってくれれば完璧でしたが…はてさてどうなるのか。
それはさておき、中隊長もあれでいて結構すり減らしてきているって事なんですかね。
…そこにトンネルの化け物が決定打になったと。
まぁ此処まで来てなんとも無かったら、ある意味もう超人でしょうけれども。
なんにせよ色々と限界なんでしょうね。
ハボックの身内にまで声を掛けてくるって事は結局そういうことな気がします。
過保護な中隊長としては過保護な二人には、なるべくハボックの部下として命を使って欲しいと思ってそうですし。
とにかくフラグ立てに邁進する過保護な面々の為に、ここは被過保護者たる魔法使い殿の『しぼうふらぐをおるまほう』に期待しましょう。
さもなくば経を唱えるしかありませぬ。
南無〜。
セントリー・・・いい人?
aris arisです。
セントリーがとってもいい人に見えます。
何だろう・・・この見守っている感じは。
というか、セントリー大好きになりかけてきました。
ハボック、上官思いの部下でよかったね・・・。って思いました。
セントリーと何であんなところでであったのかと、気にしていましたがそんなエピソードが!!
人気投票があれば、今回はセントリーに一票ですね。
今回も面白かったです。また次回も、期待しています。
レス大遅刻、ご容赦
ダナエ まかろにさま
コメントありがとうございます。
この一話にセントリーをぎゅっと凝縮させていただきました。くどいですね。
実は中隊長視点と迷ったのですが、どっちにしてもこの二人には今回裏側を見せていただく予定でした。
ブラックウィドウはわりと印象のまま顔の広い裏社会あがりの兵士なのですが、この二人はハボックから見てると物凄く超然としている人物になってしまうので、ここで人間らしさを出せたのはよかったと思います。
死亡フラグは……うん、まあ。
なんとなくハボックの知らないうちに暗雲が立ち込めて参りましたが、どうか次回もよろしくお願い致します。
お返事遅くなって済みませんでした!
aris様
コメントありがとうございます。
セントリーを前面に押し出した今回、最初のプロットの時点ではまず軍に入るきっかけあたりから書いてました。
無駄なので切ったのですが、それでも充分にセントリーが自己主張してますね。
人気投票の予定は残念ながらありませんが、そのお言葉が大変ありがたいです。
次回も面白いと思っていただける世頑張りますので、よろしくお願いいたします。
レスが遅れまして大変失礼いたしました。
ではでは!
今更ながら感想です
えじ セントリーがデレた!
なんかもう今回の感想はこれにつきますね。
何この人、隊長が見てないところではこんなデレデレなんですか。
忠誠心は高くてもあんまりそれを見せないような人なのかなぁ、と思ってたのですが……セントリー視点の一人称なせいもあるでしょうが、こんなにも臆面もなく隊長大事っぷりを見せてくれるとは。
ブラックウィドウといい中隊長といい、ほんといつの間にやらハボ(仮)さんの知らないところで守り隊が結成されてますね。
でも中隊長の相談事が、ハボ(仮)さん(と、クーガー君)抜きで……というのが、なんか、見ててもどかしいですね。
ハボ(仮)さんはなるべく原作に関わらない、の方針をとってるわけですし、知ってること全部ペラペラ喋っちゃうわけにはいかないんでしょうけど、でもやっぱり後になって「もしも、あの時……」ってなりそうで心配で。
あ、あとクーガー君は相変わらず可愛いですねぇ。
二人のかけあいがほのぼのしてて、そりゃみんななごむよなぁ、と思いました。
でもクーガー君は隊長さんのためならある意味セントリー以上になりふりかまわなそうな気もしたりしなかったり。
わんこに見えて実は狼のような?
セントリーは普通に忠犬でブラックウィドウは野良犬っぽいイメージです。
なんか一月も経ってからこんな長文すみません。
次の更新は明日の大晦日更新、になるのでしょうか?
楽しみにしてますね。
これからも執筆頑張ってください!
ではでは、よいお年を!!
今頃気がついた…
ダナエ えじ様
あけましておめでとうございます。
そしてコメントありがとうございます。
か、書き込みに気がつくのが遅れまして大変失礼いたしました!
遅ればせながらレスさせていただきます。本当に申し訳ない……。
はい、セントリーデレました!
このパートは連載開始のプロットではブラックウィドウ、内乱終了後の調整時点では中隊長パートだったのですが、迷った挙句に蓋を開けてみたらセントリーです。
彼の内外のギャップや、神経が磨り減りつつある中隊長の様子など、書きたいところは書けたかなーと思っております。
ちなみに三人が調査の話をしている時にはクーガーのクの字も出なかったあたりにその立ち居地をそっと暗示してみたり。
年末に丁寧なご挨拶をありがとうございました。
長文書き込み大歓迎ですので、今年もよろしくお願いいたします。
最後に、重ね重ね遅くなってしまって申し訳ありませんでした!
それでは、また。
まかろに なにやらキナ臭さ増量中ですね。
これで中隊長が『いいか? 死ぬなよ!? 絶対死ぬなよ!?』とか言ってくれれば完璧でしたが…はてさてどうなるのか。
それはさておき、中隊長もあれでいて結構すり減らしてきているって事なんですかね。
…そこにトンネルの化け物が決定打になったと。
まぁ此処まで来てなんとも無かったら、ある意味もう超人でしょうけれども。
なんにせよ色々と限界なんでしょうね。
ハボックの身内にまで声を掛けてくるって事は結局そういうことな気がします。
過保護な中隊長としては過保護な二人には、なるべくハボックの部下として命を使って欲しいと思ってそうですし。
とにかくフラグ立てに邁進する過保護な面々の為に、ここは被過保護者たる魔法使い殿の『しぼうふらぐをおるまほう』に期待しましょう。
さもなくば経を唱えるしかありませぬ。
南無〜。
セントリー・・・いい人?
aris arisです。
セントリーがとってもいい人に見えます。
何だろう・・・この見守っている感じは。
というか、セントリー大好きになりかけてきました。
ハボック、上官思いの部下でよかったね・・・。って思いました。
セントリーと何であんなところでであったのかと、気にしていましたがそんなエピソードが!!
人気投票があれば、今回はセントリーに一票ですね。
今回も面白かったです。また次回も、期待しています。
レス大遅刻、ご容赦
ダナエ まかろにさま
コメントありがとうございます。
この一話にセントリーをぎゅっと凝縮させていただきました。くどいですね。
実は中隊長視点と迷ったのですが、どっちにしてもこの二人には今回裏側を見せていただく予定でした。
ブラックウィドウはわりと印象のまま顔の広い裏社会あがりの兵士なのですが、この二人はハボックから見てると物凄く超然としている人物になってしまうので、ここで人間らしさを出せたのはよかったと思います。
死亡フラグは……うん、まあ。
なんとなくハボックの知らないうちに暗雲が立ち込めて参りましたが、どうか次回もよろしくお願い致します。
お返事遅くなって済みませんでした!
aris様
コメントありがとうございます。
セントリーを前面に押し出した今回、最初のプロットの時点ではまず軍に入るきっかけあたりから書いてました。
無駄なので切ったのですが、それでも充分にセントリーが自己主張してますね。
人気投票の予定は残念ながらありませんが、そのお言葉が大変ありがたいです。
次回も面白いと思っていただける世頑張りますので、よろしくお願いいたします。
レスが遅れまして大変失礼いたしました。
ではでは!
今更ながら感想です
えじ セントリーがデレた!
なんかもう今回の感想はこれにつきますね。
何この人、隊長が見てないところではこんなデレデレなんですか。
忠誠心は高くてもあんまりそれを見せないような人なのかなぁ、と思ってたのですが……セントリー視点の一人称なせいもあるでしょうが、こんなにも臆面もなく隊長大事っぷりを見せてくれるとは。
ブラックウィドウといい中隊長といい、ほんといつの間にやらハボ(仮)さんの知らないところで守り隊が結成されてますね。
でも中隊長の相談事が、ハボ(仮)さん(と、クーガー君)抜きで……というのが、なんか、見ててもどかしいですね。
ハボ(仮)さんはなるべく原作に関わらない、の方針をとってるわけですし、知ってること全部ペラペラ喋っちゃうわけにはいかないんでしょうけど、でもやっぱり後になって「もしも、あの時……」ってなりそうで心配で。
あ、あとクーガー君は相変わらず可愛いですねぇ。
二人のかけあいがほのぼのしてて、そりゃみんななごむよなぁ、と思いました。
でもクーガー君は隊長さんのためならある意味セントリー以上になりふりかまわなそうな気もしたりしなかったり。
わんこに見えて実は狼のような?
セントリーは普通に忠犬でブラックウィドウは野良犬っぽいイメージです。
なんか一月も経ってからこんな長文すみません。
次の更新は明日の大晦日更新、になるのでしょうか?
楽しみにしてますね。
これからも執筆頑張ってください!
ではでは、よいお年を!!
今頃気がついた…
ダナエ えじ様
あけましておめでとうございます。
そしてコメントありがとうございます。
か、書き込みに気がつくのが遅れまして大変失礼いたしました!
遅ればせながらレスさせていただきます。本当に申し訳ない……。
はい、セントリーデレました!
このパートは連載開始のプロットではブラックウィドウ、内乱終了後の調整時点では中隊長パートだったのですが、迷った挙句に蓋を開けてみたらセントリーです。
彼の内外のギャップや、神経が磨り減りつつある中隊長の様子など、書きたいところは書けたかなーと思っております。
ちなみに三人が調査の話をしている時にはクーガーのクの字も出なかったあたりにその立ち居地をそっと暗示してみたり。
年末に丁寧なご挨拶をありがとうございました。
長文書き込み大歓迎ですので、今年もよろしくお願いいたします。
最後に、重ね重ね遅くなってしまって申し訳ありませんでした!
それでは、また。
